第八回 長池講義 開催情報
会   場 長池公園自然館 東京都八王子市
(長池公園自然館は会場を提供しているだけなので、講演の内容などについて問い合わせをしても答えられません。ルートの確認なども含め、問い合わせしないようにお願いします。)
>>長池公園自然館(ネイチャーセンター)への行き方
日   時 2011年3月12日土曜日 13:00〜17:00
講   師 柄谷行人、丸川哲史
テ ー マ 中国の左翼について
定   員 45名
入 場 料 無料
お申し込み 締め切りました。(2月28日) 
応募者多数の為抽選とさせていただきます。結果は3月3日頃、メールにてお知らせします。
なお、当選した後、参加できなくなった時は速やかにメールにてご返信ください。次点の方に少しでも早く繰り上げ通知を送信したいと思います。
 

第七回 長池講義 開催情報
会   場 長池公園自然館 (東京都八王子市)
>>長池公園自然館への行き方
※長池公園自然館は会場を提供しているだけなので、講演の内容などについて問い合わせをしても答えられません。ルートの確認なども含め、問い合わせしないようにお願いします。
日   時 2010年9月11日(土曜日) 13:00〜17:00
テ ー マ 自由討議 『世界史の構造』
討議参加者 柄谷行人、大澤真幸、苅部直、島田裕巳、高澤秀次他。
定   員 45名
入 場 料 無料
お申し込み 終了しました。

第六回長池講義 イナン・オネル講義レジュメ
2010/3/13
イナン・オネル

トルコ、そして日本
〜思想と運動の現状と課題〜


I トルコにおける「国民国家擁護」と「国民国家批判」
● クルド分離派による問題
  「国民国家」統一性の危機→分離を前提としないクルド問題解決とは?
● 政治的イスラムの問題
  国境を超える発想を持ち合わせるリスク→民主的な過程に組み入れては?
● EU加盟過程の諸問題
  主権の一部をEUに委ねることが必要→積極的なEU加盟過程は可能か?
● イラク侵略・占領による諸問題
  領内安全への影響→早期主権回復のために…

II 共和制・政教分離・三権分立制
● 連合国構想・第二共和制・新オスマン主義
● 宗務庁強化・宗教の生活における影響範囲の拡大
● 法治国家体制の弱体化

III 労働者運動の復活と今後の課題
● トルコ労働者運動の過去と現在
● TEKEL(専売公社)労働者民営化被害抗議行動

引用:中江兆民「三酔人経綸問答」(明治20年・1887年)より
……政事の本旨とは何ぞや。國民の意嚮(いこう)に循由(じゅんゆう)し国民の智識に適当し、其れをして安靖(あんぜい)の楽を保ちて福祉の利を獲せしむる是なり。若し俄に国民の意嚮(いこう)に循はず智識に適せざる制度を用ふるときは、安靖の楽と福祉の利とは何に由て之(これ)を得可けん哉。試に今日土(と)耳(る)古(こ)、白耳失(ぺるし)亜(あ)の諸国に於て民主の制を建設せんには、衆民駭愕(がいがく)し喧擾(けんじょう)して其末や禍(か)乱(らん)を撥起して国中血を流すに至ること立て待つ可きなり。……

※イナン・オネルさんが会場で配布されたエッセイは下記に掲載されています。
http://www.mi-te-press.net/essay/bn1002.html

第六回長池講義 高澤講義レジュメ
2010/3/13
高澤秀次

「東アジア共同体」構想の歴史的軌跡

(1)11・15シンガポールでオバマ米大統領、アジア政策演説
「太平洋国家」としてアジア外交に積極的にかかわる姿勢。初の「太平洋系大統領」強調
 東アジア首脳会議:ASEAN(東南アジア諸国連合)、日・中・韓、インド、豪州
 鳩山首相「東アジア共同体構想」を発表(09年10月タイ)
 ASEAN(2015年に「共同体」実現目指す)は、日中を軸にした地域統合論によって、「東アジア地域協力」の重心が「北」に移ることを警戒、米国との距離感にも温度差(「朝日新聞」10・26社説)……1955年アジア・アフリカ会議後のヘゲモニーの変遷
 欧州・南北アメリカでの地域統合の動きに、アジアはどう対応するのか
 宗教・民族・経済格差の超克:ASEAN反共連合からの脱皮と地域主義と安全保障

 ※サイード(『オリエンタリズム』)、フランク(『リ・オリエント』)以降のアジア論
 ジョバンニ・アリギ『長い20世紀』(94年)の予告「新しいヘゲモニーは東アジア」
 14C〜17C前半ジェノヴァ─16C半ば〜18C末オランダ─イギリス─アメリカ─東アジア

(2)2010年は日韓併合百年
 日本のアジア認識では「支那事変」(1937年)の翌年に近衛首相による「東亜新秩序」声明(第二次近衛声明)……「日本の戦争目的は東亜永遠の安定を確保し得る新秩序建設にある」
 同38年第一次声明:中国との平和交渉打ち切り「帝国政府は爾後国民政府を対手とせず」
 同年第三次声明:日中国交調整の基本方針として善隣友好・共同防共・経済提携の三原則
 この戦線の拡大と対中外交混迷の中で近衛のブレーン集団・国策研究機関「昭和研究会」1937年に誕生、蝋山政道ほか三木清・尾崎秀実らも近衛新体制運動にコミット

 ※尾崎秀実(1901〜1944)は朝日新聞記者から「昭和研究会」支那問題研究会の責任者・近衛内閣の嘱託、南満州鉄道調査部嘱託などを歴任。この間リヒャルト・ゾルゲを通じソ連・コミンテルンの諜報活動に関与したコミュニスト、ゾルゲ事件で死刑
 「東亜新秩序論の現在及び将来─東亜協同体論を中心に─」(39年)
 満州事変以来の「両民族の融和」の理想に反し「深刻なる血の闘争」激化、「支那側は民族戦線を強化し、ひたすら民族戦の継続と抗争力の増大をはからんとしつつある」
 「東亜における新秩序」の要請、「事変解決の根本的な指導原理として」
 東亜新秩序の内容:東亜協同体論と東亜連盟(宮崎正義『東亜連盟論』)
 東亜連盟論……「国防の共同」「経済の一体化」「政治の独立」を謳い、中国の民族自決、国家主権を認めながらもその「盟主」は「天皇」という対等関係の擬装

 cf.石原莞爾の「皇道主義」と「王道楽土」
 東亜協同体論(山埼靖純)……東亜において地域的、民族的、文化的に接近する日本・支那・満州国の間に「国家協同体」を実現、「日本の政治、経済、文化の綜合的革新を断行して、それを支那被占領地帯にも具体的に反映」。「支那もまた一つの民族たることを具体的に認識する必要」を説く尾崎。東亜における新秩序の創建は日本自体の更革が条件
 「『東亜協同体』の理念とその成立の客観的基礎」(39年)
 「民族問題との対比において「東亜協同体」論がいかに惨めに小さいか」の認識を欠いては、「運命協同体」の緊密さも「神秘主義的決定論」に終わる
 「東亜における生産力の増大が、半植民地的状態から自らを脱却せんと試みつつある民族の解放と福祉とにいかに多く貢献すべきかはとくに強調されてよい」
 マルクス主義的生産力史観の反映……コミンテルンの忠実な諜報員?
 何故「民族主義」だったのか? 1930年代の思想と社会主義的な東亜民族協同体構想
 「新体制と東亜問題」(40年)
 新体制の要請は日本の社会経済再編の問題と深いつながりを持ち、それは世界資本主義の根本的行詰まりとその飛躍的転換の必要の問題とも関連。「この複雑なる形態の戦争を、軍事力だけをもつてしては遂行して行き得ない」。「かかる政治体制の必要は、常に支那事変処理と関連せしめて要望されたことは充分の理由がある」
 「第二次近衛内閣は、その外交政策の中心理念として「東亜共栄圏」なる言葉をもつてした。第一次近衛内閣の美事なる標語「東亜新秩序」は、如何なる理由をもつて共栄圏に変へられたであらうか、その意味は必ずしも明瞭ではない。まづ東亜新秩序の創建は偉大なる歴史的事業であつて率直なところ未だ殆どその端緒すら出来上がつてゐないと思はれる。東亜新秩序の語が揚棄せられる理由は無い」……「超国家的体制」への移行を警戒

 ※戦時期三木清の「東亜新秩序の歴史哲学的考察」:30〜40年代の「大東亜共栄圏」
 世界史的危機に対応した社会主義・ファシズム・ニューディールという三つの運動
 「同一の問題状況に対する三つの異なる解答」(ポランニー『大転換』)cf.ハイエク
 「東亜協同体」論は、「昭和研究会」を中心に、満州事変以後の政局の正当化の論理に
 「西洋の没落」(西洋近代文明と資本主義)と「東亜の復興」
 cf.大川周明:「革命ヨーロッパ」と「復興アジア」
 『復興亜細亜の諸問題』(39年):「チベット問題」「革命行程のインド」「アフガニスタン及びアフガン問題」「復興途上のペルシア」「労農ロシアの中東政策」「青年トルコ党の五十年」「エジプトに於ける国民運動の勝利」「ヨーロッパ治下の回教民族」を論じる。

 ※同時期の西田幾太郎は『日本文化の問題』(40年)で、「今日の日本はもはや東洋の一孤島の日本ではない、閉じられた社会ではない。世界の日本である、世界に面して立つ日本である」とし、「日本形成の原理は即ち世界形成の原理とならなければならない」ことを強調、「今日我国文化の問題は、何千年来養ひ来つた縦の世界性の特色を維持しつゝ、之を横の世界性に拡大すること」であるして、「皇道の帝国主義化」を「覇道化」としながらも、「皇道の発揮」を「八紘一宇の真の意義」であると語る。

 三木清はその世界史的意義を「時間的には資本主義の問題解決、空間的には東亜の統一の実現」とし、「日本が世界史の発展の統一的な理念を掲げて立つことによってのみ今次の事変は真に世界史的意義を獲得することができる」(「東亜思想の根拠」、38年)と語る。「支那事変の当初から私は種々の機会にこの事変が偏狭な民族の超克の契機となるであろうということを繰り返し述べてきた。そのことは今や東亜協同体の思想の出現によって実証されるに至ったかのように見える。東亜協同体は云うまでもなく民族を超えた全体を意味している」(同)、「それは、一方において、現在なほ想像されるよりも多く残存してゐる封建的なものを清算して近代的になることであると同時に、他方において、近代主義を超えた新しい原理へ飛躍的に発展することである」(「全体と個人」39年)

 日中相互の社会変革を通じた「東亜」の創出(対中「文化工作」の理念とその挫折)
 歴史の理性を解釈ではなく行動の原理に、ロゴスとパトスの綜合による構想力の論理として展開(『構想力の論理』:第1章「神話」第2章「制度」第3章「技術」第4章「経験」)
 問題意識としてはハイデガーからフランクフルト学派まで
 「構想力」(Einbildungsklaft):「世界史の哲学」(=日本国民の哲学)の制作の論理に
 行為を制作(ポイエシス)と認識、行為の論理=構想力の論理(単に芸術的表現ではない)
 cf.ナチズムの神話的なイデオローグ:ローゼンベルク『二十世紀の神話』
 アドルノ/ホルクハイマー『啓蒙の弁証法』
 「既に神話(ミュートス)が啓蒙である」「啓蒙は神話(ミュトロギー)に退化する」

(3)「近代の超克」と「アジア」……戦後思想における竹内好の問題提起
 京都学派:座談会『世界史的立場と日本』(1941年)、日中戦争と「東亜新秩序建設」
 開戦後の『文學界』の座談会「近代の超克」:日本浪漫派、京都学派、『文學界』各派
 このテーマは事件としては過ぎ去っているが、思想としては過ぎ去っていないと再喚起
 「近代の超克」の帰趨:「一方では東亜における指導権の要求、他方では欧米駆逐による世界制覇の目標」という二重構造の補完関係と相互矛盾について言及(「近代の超克」)。
 「東亜における指導権の理論的根拠は、先進国対後進国のヨーロッパ的原理によるほかないが、アジアの植民地解放運動はこれと原理的に対抗していて、日本の帝国主義だけを特殊例外あつかいしない」「一方、「アジアの盟主」を欧米に承認させるためにはアジア的原理によらなければならぬが、日本自身が対アジア政策ではアジア的原理を放棄しているために、連帯の基礎は現実になかった」。戦争を無限に拡大して解決を先に延ばすことにより、太平洋戦争はこの矛盾の糊塗のための「永久戦争」になる運命があった。

 「東洋が可能になるのは、ヨーロッパにおいてである」(「中国の近代と日本の近代」)
 「ヨーロッパの東洋への侵入は、一方的には起こりえない」「東洋における抵抗は、ヨーロッパがヨーロッパになる歴史の契機である。東洋の抵抗においてでなければヨーロッパは自己を実現しえない」「抵抗を通じて、東洋は自己を近代化した。抵抗の歴史は近代化の歴史であり、抵抗をへない近代化の道はなかった」(同)
 「東洋を包括したことで世界史は完成に近づいたが、そのことが同時に、それに含まれた異質なものを媒介として、世界史そのものの矛盾を表面に出した」(同)
 「アジア主義」について:1885年の福澤諭吉の「脱亜論」に対置する別の価値をもってしなければ「アジア主義」はテーゼとして確立しない(「日本のアジア主義」)
 「福澤が日清戦争の勝利を文明の勝利として随喜しているとき、したがって福澤が思想家としての役割をおわったとき、また日本国家が近代国家としてゆるぎなくなったとき、福澤の批判をテコにしてそれが生まれた。その一つは、西欧文明をより高い価値によって否定した岡倉天心であり、もう一つは、滅亡の共感によってマイナス価値としてのアジア主義を価値として文明に身をもって対決させた宮崎滔天や山田良政の場合である」(同)
 戦後、花田清輝は中国革命の成功を受け、「アジア・インターナショナル」を提唱、戦時期のイデオロギーの反転としての「東亜協同体論の復活」「大東亜共栄圏の革命的な再建」

 ※「近代の超克」と80年代のポスト・モダン
 ※廣松渉の問題提起(94年3・16「朝日新聞」)
 欧米中心の世界観は崩壊、北東アジアが歴史の主役に
 日中を軸に「東亜」の新体制、世界の新秩序をというマニフェスト
 「コロンブスから五百年間つづいたヨーロッパ中心の産業主義の時代がもはや終焉しつつある」……新しい世界観・価値観はアジアから生まれ、それが世界を席巻するとの予測
 「物的世界像」から「事的世界観」へ(物質的福祉中心主義からエコロジカルな価値観へ)
 脱アメリカ、日本経済はアジアに軸足をかけざるをえない
 「東亜共栄圏」の思想を、右翼から反体制左翼のスローガンにする時期と語る
 『〈近代の超克〉論』(80年):「近代の超克」論はそれなりの仕方で犹駛楴腟銑瓩猟狭遒鮖峺していた。これを無視してしまうと、「いわゆる日本ファシズムと「近代超克論」との思想的関係も逸することになる」

※参考文献
 三木清批評選集『東亜協同体の哲学─世界史的立場と近代東アジア』(書肆心水)
 西田幾太郎『日本文化の問題』(岩波書店) 大川周明『復興亜細亜の諸問題』(中公文庫)
 大川周明『復興亜細亜の諸問題』(中公文庫)
 竹内好編『現代日本思想体系9 アジア主義』(筑摩書房)
 竹内好評論集第三巻『日本とアジア』(筑摩書房)
 松本健一『竹内好「日本のアジア主義」精読』(岩波現代文庫)
 米谷匡史編『尾崎秀実時評集─日中戦争期の東アジア』(東洋文庫)
『尾崎秀実著作集 第二巻 現代支那批判・現代支那論』(勁草書房)
 米谷匡史「三木清の『世界史の哲学』」(『批評空間』II期19号)
 米谷匡史『思考のフロンティア アジア/日本』(岩波書店)
 米谷匡史「日中戦争期の天皇制─「東亜新秩序」論・新体制運動と天皇制─」(『岩波講座 近代日本の文化史7』)
 酒井三郎『昭和研究会─ある知識人集団の軌跡』(中公文庫)
 廣松渉『〈近代の超克論〉─昭和思想史への一視角─』(講談社学術文庫)
 加藤陽子×佐藤優×福田和也「尾崎秀実から再考する「東アジア共同体」という視線」(「en-taxi」第28号2009年12月)
 高澤秀次「東アジア共同体の幻影」(『東京新聞』2010年3月3日夕刊)

第六回長池講義 新井講義レジュメ
2010/3/13
新井政美

アジア共同体をめぐって――トルコと日本を中心に 


I オスマン(およびトルコ)・西洋関係の概観

1.近代ヨーロッパの形成とオスマン     
     ハプスブルク、ブルボンとオスマン
     ドイツ、ネーデルランドとオスマン
2.帝国主義とオスマンの周縁化
     軍事改革と西洋化
     近代的法治国家とナショナリズム
3.トルコ革命から第二次大戦へ     
     ソヴィエトの援助と共和国
     中立政策の代償
4.冷戦構造の中のトルコ     
     西側の枢要な成員としてのトルコ
     政治、経済における変化
5.現代トルコとEU     
     政治的安定と経済発展
     EU加盟への障害


II オスマンにとっての西洋、西洋にとっての「トルコ」

1. オスマンにとっての西洋
     世界の中心に位置するオスマン
     西洋化改革の容易さと困難
2. 西洋にとってのオスマン
     他者としての「トルコ」
     脅威としての「トルコ」


III オスマンにおける異教徒の問題─共同体の編制原理をかすめて─

1. オスマンにおける異教徒支配の方法
     Millet 制
      「自治」なのか
     →都市ギルドの自律性
      「自治」なのか
2. 改革期における異教徒
     「平等な国民」
3. トルコ共和国におけるマイノリティ
     「国民」原理と宗教

第六回 長池講義 開催情報
会   場 長池公園自然館 東京都八王子市
(長池公園自然館は会場を提供しているだけなので、講演の内容などについて問い合わせをしても答えられません。ルートの確認なども含め、問い合わせしないようにお願いします。)
>>長池公園自然館(ネイチャーセンター)への行き方
日   時 2010年3月13日土曜日 13:00〜17:00
講   師 柄谷行人、新井政美、イナン・オネル、高澤秀次
テ ー マ アジア共同体をめぐって――トルコと日本を中心に
定   員 45名
入 場 料 無料
お申し込み 締め切りました。(2/23)   参加希望者多数のため抽選とさせていただきます。3/1に抽選の結果をメールにてお知らせいたします。

第五回長池講義 澤口講義レジュメ
2009/9/5 
澤口隆志(市民セクター政策機構理事長)


1 歴史から見た協同組合運動の性格

■協同組合とは何か
1995年 ICA(国際協同組合同盟)150周年記念マンチェスター大会「協同組合のアイデンティティ」宣言

〈協同組合の定義〉
 協同組合は、共同で所有し民主的に管理する事業体を通じ、共通の経済的・社会的・文化的ニーズと願いを満たすために自発的に手を結んだ人々の自治的な組織

〈協同組合の価値〉
 協同組合は、自助、自己責任、民主主義、平等、公平、そして連帯の価値を基礎とする。それぞれの創設者の伝統を受け継ぎ、協同組合の構成員は、誠実、公開、社会的責任、そして他人への配慮という倫理的価値を信条とする

■コミュニティへの貢献
  • カナダのブリティッシュ・コロンビア協同組合研究所のイアン・マクファーソン博士は、このICA大会で、新たに以下の第7原則を提起し、21世紀における協同組合の使命は、コミュニティへの貢献にあると、既存の協同組合の企業化傾向に警鐘を鳴らした。
  • 第7原則 コミュニティへの貢献
    協同組合は、組合員が同意する方針にしたがって、地元のコミュニティの持続可能な発展のために貢献する

■世界の協同組合の淵源
  • 英国・消費協同組合 1884年ロッチデール公正先駆者組合が設立
  • フランス・労働者協同組合
  • デンマーク・農業協同組合
  • ドイツ・金融協同組合

■日本の協同組合の黎明
消費組合は、生産階級と消費者が結びあい、社会的秩序と互助組織をつくり、それにより商業上の投機もなくなり、労働階級からの搾取もなくなると、賀川豊彦は確信した。そこで、大阪に購買組合共益社を、1921年には神戸購買組合、灘購買組合、1928年に中郷質庫信用組合を組織した。中郷は、スラムの人々が気楽に安い利息で品物を預け、金を借り、品物の権利がなくならないように、自分たちの手で質屋を経営した。中ノ郷信用組合として今日に至る。

■日本の協同組合づくりに関わった人々
片山潜:「都市社会主義」、消費組合設立提唱
賀川豊彦:日本の協同組合の「父」と呼ばれる
吉野作造:賀川の共益社とほぼ同時期に東京家庭購買組合設立。「産育会」設立にも参加
新渡戸稲造:賀川と共に「東京医療利用組合」現 中野総合病院の設立に参加
キリスト教社会主義や都市社会主義、大正デモクラシーの時代精神を背景に、都市政策的思想やウエッブ夫妻やG.DHコールの系譜が根底にあったが、戦後生協に引き継がれなかったのはなぜか?
 →生活クラブ運動の地域民主主義へ継承


2 日本の協同組合運動を阻む法的・社会的背景

■明治以来の、上からの「社会変革」志向
  • 日本では、与野党を問わず政界はもとより、財界、労働組合運動そして協同組合運動の主流さえも、中央の組織・権力の掌握と操作による上からの全体社会システムの変革、 即ちナショナルな「社会変革」を志向
  • 従って10年どころか百年一日の如くく「エスタブリッシュメント・国家・統治・フォーマル・多数派・男社会」が特徴
  • 官僚が政策決定過程の実質的主人公→霞が関の現実無視政策→地方自治体の判断回避、指示待ち→みんなで通れば怖くない体質→他人依存・オカミ依存型体質は、公的セクター、企業セクターのみならず協同組合やNPOセクターにも浸透→主権者の主権放棄体質助長

■現場を知らない政府政策転換が急がれる
  • 社会全体が、「官と営利民間」だけで社会は運営できると思っており、市民・自治・協同の発想は無い
  • 公的セクター、企業セクター、協同組合・市民セクター(Third Sector, Voluntary Community Sector)が互いの得意・不得意、政策・制度的不都合の所在を理解し合い、相互にカウンターパートナーとして協同し、地域を再生する、という発想に立つことがない
  • 協同組合やNPOの側も、自力で、地域生活課題の問題解決力を実力で示し、政府・政党・自治体に3つのセクターのダイナミックな関係性こそが、既存の経済成長路線ではなく地球環境との共生型・循環型の経済・社会をつくっていくためには不可欠であり、有効であることを理解させるため、連携して努力する必要がある。

■時代遅れの日本の協同組合法制
日本では「官民」というように政府・自治体の公的セクターと営利企業の私的セクターだけが主流であり、協同組合は会社企業の「亜流」視
日本の協同組合法制は、人々や地域が持つ社会関係資源(人・金・モノ・情報・時間・労力・経験・技術・知恵など)を最大限に活かして、市民が自治的に問題を解決し、地域を豊かにするための社会的手段として協同組合を位置づけ、これを促進する世界的な潮流とは大きくかけ離れた時代遅れの協同組合法制
協同組合と共済分離、税制の見直しの動き加速

■日本の生協の主力はどこに行くのか?
  1. 巨大スーパーとの競争に向け2004年「日生協2010年ビジョン」大規模合併方針→生協法改定の基底→630生協→現在500生協
  2. 2005年日生協「日本の農業に関する提言」・「食生活に関わる問題提起」を発表。農産物輸入に対する日本の関税率の高さは消費者の生活を厳しくする、として政府の農産物市場の開放推進に賛成の姿勢を明らかにした=農協との協同組合間提携の放棄
  3. 一気に中国など海外に製造拠点を移し、国内での低価格路線・価格破壊競争路線に突入する体制を整えた
  4. 日生協の商品政策の基本は「徹底した低価格商品の開発」へ →ミート・ホープ事件に帰着
  5. 急速に海外に原料調達・製造・加工拠点を移し、他者に食のコントロールを委ねた結果→中国製毒入りギョーザ事件に帰着
  6. 日本の生協の主力は長年にわたり築いた「食の安心・安全は生協」の信頼を自ら地に貶めた

3 生活クラブ運動の発展

■世界が評価する生活クラブ運動
  • 1989年、「社会と環境に寄与し、新しい経済の仕組み、民主的な経営参加、たすけあいのしくみづくり、共感を呼ぶ運動、そして普通の主婦を主体とする運動に貢献する活動」に対し「もう一つのノーベル賞」といわれる「ライトライブリーフッド賞」の名誉賞を受賞。
  • 1995年、国連設立50周年を記念し、50の模範となるコミュニティの一つとして「環境保護と持続可能な発展の部門に関する活動における成功」に対し、国連50のコミュニティ賞」を受賞。

■下からの「生活改革」派の現代的典型
  • 生活クラブ運動に集った人々は、課題や問題が起こっているその生活の場、地域において、それらに向き合い、自らの暮らしのあり方を変え、自ら問題解決の実践モデルを示すことにより、地域を変え、社会を変えてきた
  • 「非エスタブリッシュメント・地域・自治・インフォーマル・少数派・女性」が特徴
  • それは、上からの「社会変革」派に対する下からの「オルタナティブ」即ちもう一つの経済・社会・政治のあり方の提案と実践
     →新自由主義的政治・経済が破たんした今こそ社会に広げる必要

■生活クラブのそもそもとは?
  • 1965年、約200人の女性たちによって、自分たちの生活を変え、地域を豊かにし、社会を変えてゆくための任意組織(ボランタリー・アソシエーション)としての「生活クラブ」が東京の世田谷区で始まった。当時は「生協」という存在も知らなかったという。
  • 運動を発展させ、継続的な事業を行ない目的を実現するために、民主的運営と経営の両立を可能にする法人組織として、1968年に消費生活協同組合を設立し、生活クラブ生協(東京)となった。

■世田谷生活クラブ 趣意書
私たちの集まりは、世田谷区に住む女性の自立的で民主的な集団として、1965年6月に世田谷区の小田急線沿線で生まれた世田谷生活クラブと申します。
クラブの活動目的は、別紙規約のとおり〜中略〜女性の主体的な力で私たちの生活を改革し、社会の進歩のための活動に積極的に参加しようというのです。

■世田谷生活クラブ 規約
  • 目的:本会は私たちの生活を改革し豊かにするための研究会、勉強会、生活物資の共同購入とその他会員の親睦をはかるための活動をします。
  • 組織:上記目的を支持する女性は本会に入会することができます。
  • 会員は一般会員、賛助会員に分かれ、一般会員は会の運営に参加し、会の行う事業の受益者となることができ、賛助会員は性別にかかわりなく、会の経済的その他の協力者とします。

■当時の社会的背景―公害の多発
  • 1955年:森永ヒ素ミルク事件
  • 1955年:イタイイタイ病
  • 1956年:水俣病
  • 1965年:新潟水俣病
  • 1967年:四日市ぜんそく提訴
  • 1968年:カネミ油症事件
●生命・生活価値を軽視し産業・商品価値優先の社会の歪みが蔓延していた。今は?

■生き方を変え、生活を変え、地域と社会を変える運動のデビュー
こんな時代状況を背景に設立された生活クラブは、発足当初から、物資の共同購入だけを目的として結成されたのではなかった。
女性市民のまっすぐな感性と知性と活力によって、社会の歪みや生命軽視の誤りを正し、本当に豊かな生活と地域と社会を、つくり、変えていく運動としてスタートした。


4 生活クラブ生協は何を目指してきたか

■生活クラブの女性たちが解決しようとしてきたことって?
  • 食の不安のこと
  • 化学物質が蔓延していくことへの不安
  • 環境の悪化のこと
  • 遺伝子組換え・種の独占の広がりへの不安
  • 農や森や海の荒廃とそれを守ってきた業と人の衰退と高齢化のこと
  • 高齢化社会のこと
  • 子育てのこと
  • 放射能汚染のこと

■なぜ共同購入と協同組合なのか?
  • 独りで悩み、あきらず、暮らしの中の課題に、その都度、一つひとつ向き合い、実践により、言わば「問題解決」を「共同購入」してきた
  • 出資者(組合員)全員が、一人一票の対等の関係で民主的に、何を、どの様に、解決していくのかを決め、実現する過程に参加できる「協同組合」の長所を最大限に活かしてきた
  • コープ商品は一切取り扱わない。初期の頃はコープ商品もあったが、石油ショック時に物が来ない現実を知り、生産者との直接連帯へ

■「生産する消費者」運動
生産原価保障方式
生産に必要なコストなどのリスクを消費する側が生産者と共に負う
主要品目価格は、組合員・生産者双方で、品質や生産方法、容器・包材、保管方法や流通手段、配送などすべての情報を互いに公開して話し合い、相互に納得・合意できる形で最後に決定する
スーパーや生協の主流では、「売買価格ありき」で、再生産コストはほとんど考慮されない
  ⇒原料や産地の偽装の温床を生んでいる。
※原材料費1円〜2円でないとできない中国製 ギョーザ1個あたり店頭価格10円の値段=生産者たたき!

■なぜ生活クラブは巨大スーパー・巨大生協ができないことを実現できているのか?!
  1. 一般生協の共同購入アイテム数は約1万以上が普通。
  2. 一般生協・スーパー店舗は2万アイテム以上の「品揃え」。メガ・スーパー10万アイテムというデータもある
  3. このアイテム数で、海外に製造拠点を置き「出口検査」で食の安全を確保することは困難
  4. 生活クラブ=組合員が自分で必要な消費材を決める。
    一般巨大生協・巨大スーパーは、バイヤーが「売れ筋」を狙い、多品種・少量生産と短期間での商品回転を商品政策の基本とする
  5. したがって、原料のNON-GM対策やトレーサビリティーの徹底をしたくてもできないのが一般巨大スーパー・生協の実態

■組合員が参加し決定するから年間を通して扱う消費材は約1600品目
  1. 今、年間を通して扱っている消費材は約1,600品目
  2. 生活の必要度が高く、健康や環境や安全の問題を解決できる本当に必要なものを組合員組織が参画し開発した「100%オリジナル消費材」
  3. 消費材規格仕様は100%情報開示。全て製造過程の「入口」での相互管理の徹底が基本
  4. 消費材を開発・生産・利用することにより大量生産・大量消費・ 大量廃棄の社会ではない「もうひとつの生活のあり方」=まちづくりのモデルを実践・提案してきました。

■食の不安を解決する食の自治の第1歩
  • 1972年:Sマーク消費材第1号
 マルモ青木味噌誕生:本来の、大豆と米と塩だけを原料に、酵母菌の発酵にまかせ、時間をかけて熟成を待つ発酵食品である味噌を、生産者と協同して、開発し、生産し、供給し、食べ続けることによって、「化学物質の産物である速醸味噌」を不買し、まち=市場を変えていく食の自治の運動の第一歩踏み出した。

■生協で唯一の自前の牛乳工場
  1. 30年前、生活クラブは生協として唯一、生産者と共同出資の自前の牛乳工場を設立。今3つの牛乳工場を経営している
  2. 地域から逃げず、生産者とともに生き、国産自給を高める運動であり続ける生活クラブ運動のシンボル
  3. こうして100の提携酪農家、5,000頭の乳牛と共に生きてきた
  4. 厳しい安全基準で品質の高い原料乳を確保し、約1900万本のパスチャライズド牛乳を生産・飲用している

■多国籍企業の種の独占に対して国産種の開発と維持に力点
 食料自給力再生に不可欠の要因の国産種の維持に最も大きな力を注いできた
  1. 日本の気候風土にあった国産鶏種(鶏肉用・採卵用)
  2. 豚種(LDB三元豚・L:ランドレース D:デュロック、B:バークシャー)国内120頭に1頭を生産
  3. 日本在来牛や畜酪兼用牛種などの開発と維持
  4. 国産なたね油の生産基盤の再生

■米の年間予約登録活動
  1. 年で約16万俵(6産地、無農薬実験米や環境保全型農薬低減米)取組
  2. 山形県遊佐町・JA庄内みどり共同開発米(農薬八成分以下)10万俵の実現
  3. 遊佐町10万俵のうち6万俵は、組合員が年間予約登録を行う
  4. 日本では6月末期末小売在庫数が翌年の作付け面積決定の指標の一つとなります。それを都会の消費者が学び、理解し、年間予約登録を行うようにメンバーに呼びかけてきた
  5. 次年度以降の減農薬や無農薬米、飼料用米作りなど、食の未来を拓く新たな産消協同につながってきた

■飼料米と米育ち豚による自給力再生
  1. 2004年に飼料米プロジェクトをスタート。誰も注目せず!
  2. 輸入飼料に依存しない畜産・酪農の再生をめざす飼料米生産と養豚給餌への生産者と組合員の挑戦。山形大学も協力
  3. 日本の食料自給率は40%(カロリーベース・2007年度)、穀物自給率は畜産飼料も含めれば25%で先進国中最低
  4. 全国470万haの農地のうち遊休農地は約40万ha。遊休農地に飼料米をつくり、輸入飼料を減らして豚や鶏の国産飼料にすれば、5%以上の自給率の向上につながる
  5. 2008年度、約320haの飼料米生産に広がる
  6. 政府が補助金を出すことを決定。消費者と生産者の連帯が日本の農政と食料安全保障政策を動かしつつある

■国産なたね再生と国産なたね油の普及(油糧原料の自給向上)
  1. 生活クラブは、1991年青森県横浜町と共に、東北農事試験場が開発したエルシン酸を含まない「国産キザキノナタネ」の作付けと取り組み契約を行い、1992年に国産なたね油の取り組みを開始
  2. 食べ続ける力によって、青森県、北海道に国産なたねの生産基盤を形成
  3. 以来16年、2007年度実績で、全国の国産なたね全生産量900トンの65%に当たる合計581トンを契約栽培している
  4. かって26万haあった国産なたね生産は、16年前476ヘクタールまで減ったが、今、ようやく約1000ヘクタールまで回復した

■農の荒廃と高齢化の解決に向け生産への労働参画
  1. 生活クラブ組合員は、加工用トマトの植え付けや収穫作業に計画的に労働参加してきた
  2. さらに、08年度から、消費する側が生産現場に参加し継続的な生産システムを作り、生産者の高齢化の問題を解決し、社会を再構成するために、生産への労働参画を社会化するための活動を開始
  3. 季節ごとの農作業に計画的に参画する人を都市部で募り、産消連帯で「まち」と「むら」を行き交う新たなライフスタイルをめざしている

■遺伝子組み換え食品・作物の不使用
  1. 生活クラブは、1997年1月に「遺伝子組み換え(GM:genetically modified)作物・食品は取り扱わないことを基本とする」「やむを得ず使用する場合は、情報を公開して取り組む」と決定した
  2. 提携生産者と協力し、すべての消費材を見直し、遺伝子組み換え食品・飼料・添加物などを取り除く努力を進めてきた
  3. 現在、主原料対策はすべて完了し、1%以上〜5%未満使用の原材料に対策が必要な10品目と、微量原材料には課題が残っていますが、これほど高いレベル且つ大半の食品においてNON-GM対策を実現しているのは世界的にも類例はないといえる
  4. 「生活クラブは、“radical” で“unique”な運動」欧州の評価―「根本的な解決をめざす」「類例のない」運動、という意味

■食品表示制度改正による遺伝子組み換え食品・作物の不買運動の実現こそ急務
  1. 他の生協や消費者組織と連携し日本のGMイネ開発実験を阻止。全国規模でのGMナタネ分布調査、農業生産者とのGMフリーゾーン運動
  2. 米国産トウモロコシ・大豆の90%がGMとなり、豪州のNON-GM菜種も生産継続が危うい
  3. 食品表示は読んでも実態がまったくわからない。消費者は輸入原料を食べているとは思っていない →無責任な消費助長。消費者主権なし
  4. NON-GM飼料の調達や国産飼料・油糧原料の増産の必要について政府や政党の理解を高めるのが課題

■「安全・健康・環境」自主管理監査制度
  1. 生活クラブ原則に基づき、生産者と組合員によって組織される自主管理委員会のメンバーが、農業・漁業・畜産・加工食品・生活用品・包装材など分野ごとに部会をつくり、自主基準を定めている。
  2. 消費材1600品目のうち、約85%に当たる1349品目(農産物192、漁業274、畜産78、加工食品748、生活用品57)が、原材料の入手過程や加工工程など、全ての消費材規格情報開示はもちろん、さらに高いレベルでの自主基準達成をめざす= 「消費材の自主規準登録」を行っている
  3. これは生産者がいつでも組合員の「おおぜいの監査」を受け容れるということ。民主的監査モデル


5 ワーカーズコレクティブとオルタナティブな労働・経済・コミュニティ

■イアン・マクファーソン博士の言葉
私がまず声を大にして言いたいことは、あなた方が、労働の問題をコミュニティに対する課題として再び中央に据えたこと、家庭外の女性の雇用のような社会的問題を発信する方法を模索していること〜中略〜日本における地域コミュニティや近隣地域に対する問題に取り組んでいることを、褒め称えたいということです。これは〜中略〜記憶されるべき価値ある協同組合運動です。

■共同購入とワーカーズコレクティブ
  1. その解決の方法は共同購入による「オルタナティブな経済」すなわち「生産−流通−消費−再利用・自然還流」の仕組みのモデル実践
  2. もう一つの解決方法の柱こそワーカーズ・コレクティブという「もう一つの働き方」と市民事業の起業によって、地域課題・生活課題の解決を進め、地域の市民に自らの「Work」参加によって、自らのコミュニティの質と形は変えられるのであり、より良く創り直していけることを実践し、実証してみせたことだ

■CommunityとWorkはコインの裏表
生産と消費はコインの裏表であることを生活クラブの「生産する消費者」運動は実証して見せた。
近代はワークを「労働条件」という雇用・被雇用という狭い概念の檻に閉じ込めてしまった。
ワークの形や多様さ、豊かさが、コミュニティの豊かさや形を決める。コミュニティとワークもまたコインの裏表であることをワーコレが想起させた
  • 生活クラブとワーカーズ・コレクティブの女性市民は、ワークにコミュニティにおける市民事業としての実態を与え、過去の呪縛から解き放った。

■まちづくり生協として
  • 2004年にできたセンター南デポーは「子どもたちが安心して暮らせるまちをつくりたい」をテーマに仲間を増やし、半径1劼農蘓佑離妊檗爾砲覆辰
  • 「困った時はデポーへ行こう」
     がデポーの合言葉。それもデポーは組合員の運営委員会と地域の生活者市民であるワーカーズ・コレクティブ・メンバーが自主・自立をもとに運営しているから。だから、地域の生活情報や解決手段のチャンネルがいつもたくさん見つかるから

■参加型福祉のまちづくりの担い手
80年代、まだ政府が生協に福祉事業運営を認可していない時から、生活クラブはW.Coと共に、自力でデイケアセンター事業を始め、また 3億円の出資金で土地を寄付し、3年間の1億円カンパ活動で、生協で初めて社会福祉法人を設立し、協同組合が日本において社会福祉事業の重要な担い手となる道を切り拓いた

■コミュニティケア―の実践者地域でたすけあいながら暮らす
  1. 高齢者、障がい者、子どもなど地域の仲間どうしが助け合い暮らすため、たすけあいワーカーズ・コレクティブ、デイケアサービスセンター、社会福祉法人などを生み出した。
  2. 生活クラブ・W.Co関連の福祉事業所は全国に544ヵ所。2006年度実績:会員数11,744人、利用者数44,869人、総事業高83億円。日本最大規模。

■ワーカーズ・コレクティブ運動―日本の社会的経済の基盤を成してきた先駆者
  1. 27年前、企業で雇われるのではなく、自分たちで出資し、運営し、働き、地域を豊かにするために、協同組合方式の新しい働き方、ワーカーズ・コレクティブが生まれた
  2. 仕出し弁当、パンなどの食品製造、高齢者ケア、保育、リサイクル、編集、消費材の仕分けや配送など、758団体、約17,000人、総事業高約120億円(2006年度実績)
  3. しかし、未だにワーカーズ協同組合は法的に認められていない。これは社会にとって大きな損失だ

■合成洗剤追放直接請求運動
  1. 1970年頃から、河川や湖沼の汚染が進み、琵琶湖では、富栄養化による赤潮発生、地域の飲み水がカビ臭く。汚染原因は生活排水、特に合成洗剤の垂れ流しと指摘され、市民運動により、79年「琵琶湖富栄養化防止条例」が施行された
  2. 河川の水質汚染を危惧する人々は「琵琶湖に続け」と、神奈川で合成洗剤追放の条例制定直接請求運動、千葉で手賀沼をめぐる地域での直接請求運動と、水環境保全運動を展開したが、運動を成功させるには力不足。請求は否決、より広範な市民の理解の必要を痛感、石けんキャラバン等の運動を展開した
  3. 1976年生活クラブ長野は諏訪湖浄化を掲げ、設立

■せっけん運動からせっけん工場へ
  1. 「合成洗剤の使用を止めて、せっけんを使いましょう!」「人体への影響、河川や海などの自然環境を守りましょう」
  2. せっけん運動は、生活クラブの原点となった運動の一つだ
  3. せっけん運動を通して、私たちは、環境汚染の被害者であると同時に加害者でもあることに気づき、自身のライフスタイルを変えようとしてきた。廃食油からリサイクル石けんを作る工場を設立し運動を広げてきた

■ダイオキシン松葉調査
松葉を使った市民によるダイオキシン調査活動を全国に広めたのは生活クラブです。所沢市で高濃度ダイオキシンが検出されて大きな社会問題になった90年代まで、行政による大気中のダイオキシン調査は一切実施されていなかった。
つまり、生活クラブの組合員が調査を始めるまで、地域の安全を確かめる信頼できるデータは存在していなかったのだ。

■ダイオキシン松葉調査2
1999年、松葉を使った市民によるダイオキシン調査を初めて全国規模で実施し、翌2000年には、ダイオキシン類対策特別措置法が施行され、日本の焼却施設の排ガス規制がスタートしたのです。

■3R(リデュース・リユース・リサイクル)とグリーンシステム
  1. できるかぎりゴミを出さないことで環境負荷を減らし、循環型社会をつくるために、1994年から、使用容器をリターナブル容器(回収してリユース可能な容器)に切り換える取り組みを他生協にも呼びかけて始めました。
  2. これが「グリーンシステム」
  3. 8種類のリターナブルびんを使用し、2007年実績で5,690トンのビンを回収(2,121トンのCO2削減に匹敵)。

■オルタナティブ・エネルギー開発
  1. 生活クラブ北海道は、泊原子力発電所反対運動を行う中で、より根本的な解決を求め、エネルギー消費の抑制と自然エネルギーの拡大を方針としました。
  2. 2000年1月、特定非営利活動法人「北海道グリーンファンド(HGF)」設立。月々の電気料金に5%を加えた額を支払い、自然エネルギーによる「市民共同発電所」の建設基金の積立て開始。これを「グリーン電気料金制度」として推進し、市民風車(風力による市民共同発電所)を道内で4基建設しています。

■ネットワーク運動市民による地域からの政治改革
  1. 1970年代、生活クラブの組合員は、合成洗剤を追放し、せっけんを使う運動を進める中で、市民の声を政治に反映させるには政治への参加と改革が必要であることを痛感した。
  2. 市民自治を行なうため、市民が地域から政治を改革する政治団体「ネットワーク運動」を自治体ごとに結成し、自治体議会に「市民の代理人」として議員を送ることを活動の軸とした。
  3. 2006年度実績で地域ネット120団体、会員総数約1万人、議員数141人。日本最大の女性市民の政治的イニシア

■生活クラブの実践を社会化する時
  • ようやく、日本にはフツーの生協以外に、どうも「生活クラブというのがあるらしい」ということが知られてきたようだ
  • 生活クラブがこの40年間、実践してきたことの意義がようやく社会の側にも明らかになってきたようだ
  • 「食」「環境」「福祉」問題を解決する先行モデルとして、ようやく、社会的評価が高まっているようだ
  • 生活クラブの経験や実践モデルを社会のしくみ化し、一般化する努力が必要


6 海外の協同組合運動が展開するさまざまなチャレンジ

■欧州・北米の協同組合の新たな挑戦
生活クラブ誕生と同時期の60年代後半、女性の社会進出が進み、子育て、介護を「家庭の仕事」から「社会の仕事」に変える社会改革・制度改革を行う
70年代末以来の不況による福祉国家の揺らぎを期に、ハンディキャプト、高齢者、子ども、移民、ドロップアウト層、失業者など社会的排除に遭う「不利な立場の人々」との共生をめざす、1991年のイタリア「社会協同組合法」に始まる公益の実現を目的とする新たな協同組合へ踏み出した=不利な立場の人々の主体参加を目的
その主体は〜塙膂協同組合のサービスや事業の利用者ボランティア参加者ぜ治体ザ力する意志ある個人・法人、と地域に開かれた協同組合であることが特徴=マルチステークホルダー型協同組合

■世界的な非営利・協同セクターへの注目の背景
  • 新自由主義的市場経済至上主義の破綻により、貧困、失業、社会的排除、福祉、介護、医療、教育、保育、農林漁業、自然環境保全など、市場の論理や貨幣価値だけに完全に置き換えることができず、たすけあいや協同に支えられる面が不可避であり、誰にでも必要な 「生活価値」を実現する「事業」や「社会のしくみ」をつくることが、世界中で急務となっている
  • 画一的な公的セクター(政府・自治体)や利潤追求を優先せざるを得ない株式会社などの営利セクターだけでは、地域再生・社会再生の事業づくりは困難なことは欧米では常識
  • 「第3のセクター」としての協同組合・NPOなど非営利・協同セクターの役割(人々がたすけあうこと)が地域や社会の再建に不可欠であることが、一層クローズアップされている
  • 利潤より共生や労働の目的を優先する「社会的経済」、その担い手の協同組合・NPOが「社会的企業」として注目されている

■社会的経済・社会的企業とは
  • 全体として、次のような運営原則と規則に基づいて行われる集団的起業から生み出される活動や団体
  1. 社会的経済企業の最終目的は、単に利潤と金銭上の採算性を追求するだけでなく、組合員・市民または集団の役に立つことであること
  2. 経営が国家から独立していること
  3. 定款と活動のあり方に、利用者と労働者の参加による民主的な決定手続きを取り入れていること
  4. 剰余や所得を分配する際に、資本よりも人間と労働を優先すること
  5. 個人や集団の参加と自律、責任を活動基盤とすること

■協同組合推進は世界的潮流1
  • 国連は、第56回総会の第三委員会で2001年12月に以下の様に、「社会開発における協同組合」を決議
  • 「様々な形の協同組合が、女性や若年者、高齢者、障害者等あらゆる人々による経済・社会開発への最大限可能な参加を促進し、また経済・社会開発における主要な要素になりつつあることを認識すべきである。そして、協同組合にとって支援的な環境を確保し、協同組合の目標達成の助けとなるようその可能性を保護・促進する観点から、協同組合の活動に適用される法制上また行政上の規定の継続的な見直しを各国政府に奨励すべきである」とした

■協同組合推進は世界的潮流2
  • ILO(国際労働機関)は、ICAの定義を受けて、第90回総会で2002年6月に「協同組合の促進に関する勧告」を採択し、以下のように、対策を講じるよう加盟国に呼びかけている
  • 協同組合は、「共同で所有され、かつ、民主的に管理される企業を通して、共通の経済的、社会的及び文化的ニーズ及び願いを満たすために自発的に結合された自主的な人々の団体」と定義し、雇用創出、資源動員、投資創出、経済寄与における協同組合の重要性、協同組合が人々の経済・社会開発への参加を推進すること、グローバル化が協同組合に新しい圧力、問題、課題、機会をもたらしたことを認識し、協同組合を促進する措置を講じる、ことを勧告している

■協同組合推進は世界的潮流3
  • 公共サービスの担い手としての新たな協同組合のあり方が各国で政策的に続々と登場
  • 新たなサービスや労働や雇用を生み出すことを通して、ハンディキャプトや排除を受ける人々との共生を目的とする協同組合の創出である
    イタリアの「社会協同組合」
    フランスの「公益的協同組合」
    カナダ・ケベック州の「連帯協同組合」
    カナダ・ブリティッシュコロンビア州の「コミュニティサービス協同組合」

■イタリアの社会協同組合1
北部イタリアの社会協同組合ホテル「トリトン」
社会協同組合が経営する、精神に障害のあるひとたちによって、運営されるホテル。数キロ先に行くと、ユーゴとの国境にある、有名な保養地にある。行楽期はとても忙しくなるそうだ。

■イタリアの社会協同組合2
とても清潔でアットホームな感じであるが、部屋数が、15程度なので、「役所規準」「一つ星」しかならないが、この地域の市民社会が存在を高く誇っているため、交通標識には、堂々、他の三ツ星とならんでいる
朝、朝食を用意していった若者が、治療に出かけていった。「治療」と「職場」の移動がとても自然なのが印象的だった。

■トリエステ「バザーリア合同労働者」社会協同組合
「ランドリエ」は、障害者の人たちが働く、クリーニング店。病院や役所の公的需要が多いそうであり、それが経営を支えているようだ。こうした、職場の経営指導や行政との対応、資金調達に「中間支援」組織として「バザーリア」が対応している

■社会協同組合「野いちご」
  • このレストランは、トリエステの社会的協同組合が経営するレストラン
  • 場所は、山の上の解体された精神病院跡の中で、運営されている
  • 「野いちご」は、人々がつながって生きることを表現している

■米国は協同組合大国って知ってた?
●米国の協同組合=1億3000万人が参加〔2005年度)、全米2万1367の協同組合と連合会
  • 協同組合銀行、電力協同組合、保育・ペアレンツ協同組合、住宅協同組合、信用協同組合(米国海軍信用金庫など)、農業協同組合(サンキストなど)、消費協同組合、フードコープ、テレコミュニケーション協同組合など
  • 50万人の雇用、1兆5千億円の給与、23兆円の事業高
  • NCBA (National Co-operative Business Association) によって90年前形成。70人のスタッフを擁しロビー活動
  • オバマ政権にはNCBA人脈が参加することができ、政府とも良好な関係を築いていける見通しと断言する

■ベンジャミン・フランクリンが協同組合を?
First Successful U.S. Cooperative
Benjamin Franklin
The Philadelphia Contributionship for the Insurance of Houses from Loss by Fire Founded in 1752
Still exists

■3人から協同組合が創れる自治型社会!
  • フィンランド・スウェーデンの各協同組合法、カナダ連邦協同組合法、東海岸のケベック州協同組合法、西海岸のブリティッシュコロンビア州協同組合法でも、従来からたった5人だった協同組合設立に必要な人数の規準が、より使い勝手良く「3人集まればどんな協同組合でも設立できる法制度」へと改善された。
  • 世界でも最も先端をいく協同組合法の一つといわれるフィンランド協同組合法(03年12月発行版)の「第2章 協同組合の設立および定款」には、「協同組合は3人以上の自然人、団体、財団およびその他の法人によって設立することができる。発起人は協同組合の組合員となる」とあり、小規模協同組合設立を推進している

■協同組合先進国スエーデン
  • 北部エステルスンドの「父母協同組合協同組合保育所」は1985年設立
  • スエーデンの社会協同組合の先駆的事例。地方の過疎化のため親たちが自ら保育所設立
  • もちろんハンディある子も含め1歳から6歳まで25人預かれる
  • スタッフ3名、父母たちがボランティア参加。保育費用は収入に応じで決まる。スタッフ人件費は自治体負担。施設賃借料は組合

■高齢者ホーム住宅協同組合
  • 1966年、市が保証人で、ショートステイ含め建物は協同組合が建設
  • 組合員が高齢者ら50人、出資金7500円ぐらい、家賃6万円(自治体が出す補助金も含む)
  • 13人のスタッフが昼夜のケアに当たる。コミューン(自治体)がスタッフは雇用する

■発展協同組合(Bod Jobygdens)
  • ボドシェ地区の村で、98年協同組合振興機関(CDA)支援し初めて村が始めた協同組合。地域の人口が少ないため15村協同運営
  • 全180戸の家族450人で組織、100人は高齢者
  • 保育所・高齢者施設・公民館活動。行政機能も市から委託され、コミューンからの保障も毎週金曜集まり料理をし、交流し、年4回ダンスパーティーはみんなの楽しみな行事となっている

■カナダ・ケベック州:協同組合住宅エスカリエ(Coopérative d'habitation, l'Escalier)
  • 高速道路建設にともない立ち退きを要求された住民が1976年に結成した「サン-ジャン-バティスト人民委員会 Le Comité populaire Saint-Jean-Baptiste」は、古い建物をリフォームして人間的な規模の協同組合住宅を建設したり、地域に小さな公園を作ったり、倒産した安い古着屋を再開することで、サン-ジャン-バティスト通りの人間味のある街並みや人間関係を維持し、ケベック市の再開発事業に反対する活動を続けている。
  • 会住宅(81戸)を建設する計画を立案。連帯経済金庫の支援を受けながら、2年間にわたる開発業者との闘いの末に計画を実現した。

■協同組合ボルデ−メデューズ(Bordée-Méduse):都市再活性化のモデルプロジェクト
ケベック市のサン-ロック Saint-Roch地区は、アーティスト協同組合メデューズとボルデ劇場を中心として再開発された。同時に、周辺のアーティストのアトリエ、大学校舎も改築。
このサン-ロック地区の再開発・再活性化は、文化を起動力とした成功例として世界的に知られている。

■食料品店タンドル・ヴェール(Tendre Vert, épicerie)
協同組合タンドル・ヴェール[柔らかい緑の意]は、レヴィ市旧市街地で20世紀初めに営業していた食料品店を再開。社会的責任と環境を標榜した民主的で自立的、平等、自由な経営を実施。商品はすべて環境に配慮した地場産の有機食品。包装や食品の輸送距離(フードマイレージ)を減らす努力も。
組合員数:630人。

■アコードリ・ネット(Le Réseau Accorderie)
  • 「1時間=1時間」を原則として、住民が自分にできることを交換するサービス交換協同組合。
  • ケベック市で2002年に設立。現在トロワ-リヴィエール市とモントリオール市で活動。組合員数:約400人
  • 別の地域のアコードリとも「社会通貨」を介して交換可能。

■ギュイエンヌ温室協同組合(Les Serres coopératives de Guyenne)
1980年にアビティビ市で設立。
協同組合で温室を廃校になった小学校の校舎をリフォームしたコミュニティ・センターに建設。
組合員数:90人
1998年に農業経営が破綻。300カナダドルの債務。
その後、温室栽培が軌道に乗って、農繁期には臨時作業員250人を雇用。2006年に純収益50万カナダドルを達成。

■コスタリカの若者への連帯支援(Soutien solidaire de jeunes au Costa Rica)
コスタリカの自主管理協同組合スラ・バツは、ラテン・アメリカとカリブ海を中心とする地域で、住民の職業訓練、協同組合設立支援を行っている。
2005年5月、事務所を引っ越したばかりの同組合が空き巣に遭いコンピュータなど事務用品を盗まれたが、保険に加入する前で、仕事ができずに困っていた。
そこで、連帯経済金庫が無利子で融資。活動再開できた。

■ビール協同組合
  • ケベック州の中で収穫される原料のみを使い、数百種類のビールを生産し、人気の協同組合
  • 約2年間の研修期間を経て、出資金60万円とケベックでは非常に高額の出資をして、参加する
  • コミュニティ・ディベロップメント・センター(CDS)と共同で、ある銘柄のビールを飲むとその価格の中から25セントがCDSのコミュニティ振興基金に寄付される。
  • 「酔っ払いも地域貢献できる」とても楽しい地域再生と社会経済の進め方だ

■葬儀協同組合
生前から組合員になって遺族に負担をかけない最期の終わり方を選ぶ
でも、亡くなってから家族の意志でも加入することもできるそうで、固いことは言わないゆるやかな協同組合でした

■労働協同組合(La coopérative du travail)
労働者が所有
労働者に仕事を提供することが目的
労働条件や労働環境の管理も
組合員資格は、その協同組合に雇用されることによって生じる
事業体の労働者を組合員か準組合員の資格でまとめる
森林整備、林業・製材、救急隊員、コンサルタント・サービス、社会福祉サービス、工業一般の各業種に見られる


7 株式会社の特徴と協同組合の可能性

■株式会社の得意・不得意
  • 得意:世界中の不特定多数から、スピーディーに資金を調達し、優秀な経営組織で、短期間に事業を立ち上げ、大きな利潤を上げ、株主に多くの利益を分配すること
  • 不得意:ある特定の地域の人々の生活の根幹に関わる課題を、地域固有の「社会的関係資源(人・経験・知恵・労力・金・モノ・情報・時間など)」に依拠して、ある一定レベルの解決を、一定レベルまでのコストで継続して解決し続け、シビルミニマム(市民生活最低基準)を支え続けること=地域再生

■協同組合の特徴と得意と不都合
  • 「出資・利用(労働・生産)・運営」を三位一体でメンバーが担う⇔出資者、経営者、利用者が別で分業が可能な株式会社の対極。スピード経営は不向き。協同組合と会社がカウンターパートナーとして連携するセクターバランスのとれた社会が理想
  • 得意:すぐに多額の利益を得られなくても、その事業やサービスや地域ニーズの必要性に合意する人々が、出資し、メンバーの持つ社会的関係資源(人、時間、知恵、経験、金、モノ、労力など)を出し合い(参加)、収支均衡を維持しつつ、参加者を増やし、求める価値や共通利益を生み出すこと。地域再生は得意
  • ケベック州協同組合法は第珪蓮↓絃呂法峅饉劼ら協同組合への改組による継続」を16条に渡り定める。条件不利地域含め、地域になくてはならないライフラインや店舗が立ち行かなくなった場合等、地域の人々が資金、労力、時間、施設、知恵、経験、技能、技術を出し合って、協同組合形式で事業を存続させ、コミュニティを自治型で運営するのだ→今後日本に不可欠の制度

■市民の問題解決の道具としての非営利協同セクターを育成するための政策・制度が必要
  1. まずは、協同組合を規制する動きを見直すこと
  2. 協同組合をはじめとする非営利協同セクターに関する縦割り行政を見直し、その育成・支援のための統一した方針・計画の策定及び統一窓口の設置
  3. 地域再生事業や第1次産業への、協同組合や事業型NPOなどの参入促進政策
  4. 地域貢献を目的に、出資し合い、協同で経営し、共に働く、ワーカーズ協同組合の法制化の推進
  5. 市民の「意志ある預金・出資」を活かす社会的金融の仕組みを推進する政策・制度
  6. 3人からどんな協同組合もできる統一協同組合法制定


澤口隆志 自己紹介

1953年:宮城県仙台市生まれ
1972年:宮城県工業高校機械科卒
1983年:中央大学大学院法学研究科政治学専攻修士課程終了(地域政治論)
1985年:生活クラブ生協・神奈川中途採用。その後、横浜北部ブロック事務局長、横浜南部ブロック事務局長、川崎生活クラブ生協参事
1993年:英国 London South Bank University 大学院留学
1996年:総務部長、住まい事業・株式会社オルタスクエアを設立、常務取締役
1997年:生活クラブ生協・神奈川常勤理事、横浜西部生活クラブ生協参事
2001年:政策調整部長、5地域生協法人独立化の対神奈川県交渉担当
2003年:県央生活クラブ生協参事
2004年:さがみ生活クラブ生協専務理事(5地域生協法人独立)
2006年:生活クラブ連合会出向、市民セクター政策機構理事長就任

澤口e-mail
生活クラブ連合会HP: http://www.seikatsuclub.coop/


澤口隆志レジュメ
協同組合の射程 市民の自治型問題解決の道具として(PDF)
市民セクター政策機構 理事長 澤口隆志

第五回長池講義 高澤講義レジュメ
2009/9/5
高澤秀次

廣西元信『資本論の誤譯』(1966年 青友社)についてのノート 

※60年代社会主義の理論モデル「構造改革論」と廣西理論との関係
※戦後マルクス主義の在野研究者の系譜……田中吉六・三浦つとむ・対馬斉・滝村隆一
※翻訳文化(「明治官許御用学」)と講壇マルクス主義研究の教条批判
※アソシエーション論としての先駆性

各章の構成と論旨

第1章:株式会社は共産社会まで存続
 資本主義のもとで株主だけが連合した社会的資本=外形的な社会資本(外形的な社会的所有)が、連合生産者(株主・経営者・労働者)の所有になることで、完全な社会的所有[共産主義]が実現される。 会社自体が「所有権者」、労働者は「占有権者」になる。
 古代の(共同体の)所有、占有関係のような状況へ逆に転化すること。株式会社なしには共産主義へ移行出来ない。 利潤分配制株式会社=社会主義的株式会社はその通過点
 その限りで共産主義社会に最も接近しているのは、ソ連ではなくアメリカ
 「マルクス主義」の名によって語られた「国有」(国家所有)という観念の全否定
 資本所有という機能が、会社自体の機能=完全な社会的機能に転化するための通過点
 『資本論』、マルクス文献の誤訳と誤読……社会主義を意味する associate(横の連合・提携)と資本主義を意味する Kombinat(上からの統合)の決定的差違を無視していずれも「結合」と翻訳

第2章:誤訳以前の問題
 the State:国家は一定の形態、組織をもつ機構,機関で対外的な意味をもった形態概念
 national:国民に共通のある性格。対内的の意味に使用され、時には国家に対する反対語でもある性格概念……所有関係とは無関係
 「国有工場」Nationalfabrikなどというものはマルクスの文献になく、正しくは「国民工場」訳すべき。 「マルクスは、将来社会を、巨大な株式会社制度、ある種の大会社のような制度と考えていた」……社会主義社会
 マルクスはレーニンが『国家と革命』で誤読したように、社会全体が、平等に労働し平等に賃金をうけとる「一事務所」「一工場」となるであろうなどと予言してはいない。
 an association になるだろうと述べているだけ。 「一つの」ではなく大、中、小、複数の株式会社の連合(アソシエーション)という意味。「一つの」は不定冠詞の初歩的な誤訳

 マルクスの「安あがり政府」論:「コンミューンは、二つの最大の支出源――常備軍と官吏制度――を破壊することによって、ブルジョア革命のあの合言葉、安あがりの政府(cheap goverment)を実現した」(『フランスの内乱』)
 プロレタリア革命とは段階的(歴史限定的)には、チープ・ガヴァメントを実現すること

第3章:誤訳の第一法則
 形態概念と性格概念の区別(独・仏・英・露・日の訳語の比較対照)
 direkt とunmittelbarという概念の違い:ディレクトの社会資本がウンミッテルバールの社会=会社資本になる。つまり株式連合による社会=会社資本ではなく、会社自体が所有権者になる。これがウンミッテルバールの社会資本。
 利潤分配制の中間点を通過して、会社自体が所有権者になる……社会的所有になる
 ディレクトの形態的な社会=会社的所有は資本主義
 ウンミッテルバールの社会=会社的所有は共産主義(発展の形態過程だけでなく、その形態変化を貫く内在的論理、性格過程を追究したのがマルクス)

 私的所有、所有と占有
 太古の共同体では、まだ占有しているだけで、所有権思想は未発達。所有ということが所有権として、政治権力から完全に解放された資本主義の「現在」を基点に過去を「逆算」。
 社会主義とは、太古の共同体の様式に逆算すること。しかもなお、単なる過去の再現回帰ではなく、「所有」ということが有名無実となるような方向を目標とするのが社会主義。
 所有権の観念から最終的に解放されるための生産力の増大はその手段にすぎない。
 「共産主義の形態としては、財貨が空気のように豊富で、共同所有ということも有名無実のような形態が類推される」

 量(形態)の集積と質(性格)の転化
 形態概念と性格概念との相違
 分散的な小企業から資本主義的な大企業になる過程は、長期的かつ困難な形態転化の過程。
 これに反して、資本主義的私的所有性という社会的性格を、社会主義的なそれへ転化するのは、性格的転化であるだけに、前者ほど困難な過程ではない

 資本制的な【私的所有private property】は、自分の労働を基礎とする【個々人的な individuell】私的所有の第一の否定である。
 だが資本制的生産は、一自然過程の必然性をもって、それ自身の否定を生みだす。これは否定の否定である。この否定は、私的所有を再建するわけではないが、しかも、資本主義時代に達成されたもの――すなわち協業や、土地・および労働そのものによって生産された生産手段の【共同占有Gemeinbesitz=possession in common】――を基礎とする【個々人的indivisuell】所有を【再建するre-establish(『資本論』第1巻、第7篇資本の蓄積過程 第24章「いわゆる本源的蓄積」第7節「資本制的蓄積の歴史的傾向」)

 cf.平田清明『市民社会と社会主義』(岩波、69年)……「共同所有」の否定の否定としての「個体的所有」の再建。「労働者は、おのれの奪われた個体性を奪いかえし、おのれが始源において保有していた「個体的所有」を、そして後に私的所有のもとでおおいかくされた「個体的所有」を「再建」することを、当然の要求としていく」(P144)

 ※マルクス「ザスーリチへの手紙」(1881年、『マルクス・エンゲルス農業論集』)
 「個人の労働に根拠をもつ私的所有(individuell property)は、……他人の労働の搾取すなわち賃労働に根拠をもつ資本主義的私的所有(private property)によっておしのけられてしまう」(『資本論』)。西側諸国のこの運動においては、私的所有のひとつの形態の他の形態への転化が問題になっているのです。これに反して、ロシアの農民については、その共同所有を私的所有に転化しようというのでしょう。それゆえ『資本論』で与えられている分析は─村落共同体の生存力にたいして賛否いずれにしても─証拠をふくんではおりません。……(中略)……原史料からから史料を調達した特別の研究は、次のことを私に確信させるにいたりました。すなわち、こういう村落共同体はロシアの社会的再生産の支点であること、しかしそれがこのような意味において機能しうるためには、まず、あらゆる側面からそれに襲いかかる破壊的な影響を除去し、それにつぎに自然的な発展に正常な諸条件を確保してやること、これであります。(大内力訳)
 cf.ロシア革命とレーニン、トロツキーの「発展段階説」……資本主義的発展の未成熟とヴォリシェヴィズム(過激革命主義)、ソヴィエトの一党独裁のプロセス

 廣西:株式会社という完成形態・量の集積の基礎の上で、その内部性格が「共同占有」という性格変化さえすれば、それが社会主義(国営企業は共同所有の疎外形態)
 共産主義とは、所有権者が個々の株主ではなく、会社自体が所有権者になること
 株主だけの限定的共同なディレクトの形態から、株主・経営者・労働者、全部を含めての実質的なウンミッテルバールの共同所有性格のものになる

 性格は協同組合、形態は株式会社……株式会社を協同組合(「社会主義の生産様式の母型」としてのアソシエーション)的な性格に変革する。 株式企業を協同組合的生産様式に変革。 連合的労働者は彼ら自身の資本家。 資本制的株式会社は連合生産様式への過渡形態
 利潤分配制は株主でないものが、利潤を取得すること……私的所有性の廃棄

第4章:誤訳の第二法則
 具象概念としてのprice(価格)/抽象概念としての value(価値)
 形態と性格、所有と占有の区別、相関関係を軽視、混同するところから価格/価値の混乱
 独裁dictatorshipという意味
 レーニンの誤謬:ディクテーターシップを、せっかく本質概念として説明しながら、実際は革命的ディクテーターシップを形態的に理解し、それを歴史的時期全体に敷衍。
 資本主義から社会主義への移行期の政治形態として、不可避の民主共和制を結果的に隠蔽
 レーニンの弁証法には「相互浸透」が脱落。過程のなかで相互浸透し、浸透の度合の量の集積によって、質的転化するという考え方が脱落。今日まであったものが明日から無になる?

第5章:誤訳の第三法則
 異語を同一語に訳す性癖:コンビネート(資本主義を意味する用語)とアソシエートとを同じく「結合」とした誤訳。
 結合の三様式:統合・連合・会議体的/connectionとco-ordinateの混線
 国家の二面性:国家意志と国家の職能、純技術的側面と政治側面の矛盾対立。
 マルクスは国家の二面性が、協業が要求する純技術的な側面と、監督労働という政治支配的側面、この二重の面からの説明(『資本論』第3巻23章)
 レーニンはこの『資本論』中の国家に関する最重要な見解を無視(単純化)した。

第6章:『共産党宣言』について
 1848年のマニフェストはマルクスがまだ、協同組合的生産様式、利潤分配制的生産様式への構想に到達していない頃のもの。国有・国有化説とは別コースを歩んでいたマルクス
 国家所有というものは、ローマ共同体で発現しているもので、共同体の疎外形態
 アソシエーションの権利を認めるのが社会主義:法人格結成の自由、会社法人設立の自由、各個人が自由に団結、連合する権利の容認

第7章:株式会社の形成について
 社会資本とは株式会社資本のこと
 資本制的株式会社:資本家の統合(コンビネート)生産、株主たちの共同占有
 社会主義的株式会社:経営者と労働者の連合(アソシエーション)生産、経営者と労働者の【共同占有Gemeinbesitz】

第8章:諸家諸説の放鳴
 株式会社は、生産様式としては最も「自由にして、連合(アソシエート)的な企業」。
 この資本制的株式会社の内部で、経営者と労働者がアソシエートした場合、それはウンミッテルバールunmittelbar(内部直接的な)の社会的=会社的所有となる(マルクス説)
 利潤分配制生産様式:自家撞着、矛盾した言葉(利潤が労働者に分配されるのでは、利潤が利潤でなくなるから)
 革命とは、弁証法的には新しい矛盾を創設すること。コンビネートな生産様式を新しい矛盾、アソシエートの矛盾様式に転換すること。
 資本主義を揚棄するものとしての、即ち連合的生産方法に到達する過程で、積極的なものとしての協同組合と、消極的なものとしての資本制的株式会社、この両者の相互浸透形態が、利潤分配制的株式会社

第9章:エンゲルスは間違っている
 マルクスは今日の資本主義社会を、太古のアジア的共同体の姿へ一挙に、直接的に逆転化しようと考えたのではない。マルクスが共産主義の第一段階、つまり社会主義段階の青写真として画いたものは、生産手段所有の第二形態(ローマ的共同体)と、第三の形態(ゲルマン的共同体)との複合型。太古のアジア的形態では、個々人の所有はなく、共同体が所有者、個々人は占有者。 ゲルマン的形態では逆に、土地は基本的に個々の家族のもの。
 共同体地は、個々の家族の生活を補完するもの。 ローマ的共同体では共同体地(貴族が占有する国有地)と分割地(私的所有地、ローマ市民は私的所有地を所有)に分けられる。

 エンゲルスは、1881年のベルンシュタインへの手紙で、社会主義とは生産手段の共同占有であることを説明、「この簡潔な語法」に「驚嘆させられました」と述べているが、【共同占有Gemeinbesitz】ゲマインベェジッツを、マルクスが使用しているような意味では理解していなかった(『家族、私的所有および国家の起源』にこの用語でてこない)

 マルクスの意見:資本主義はすでに集団的所有形態を造出しているのだから、この基礎上で、形態はそのままに資本主義の私的性格を共同占有Gemeinbesitzという性格に転換する。
 生産様式の内部で、生産様式そのものを変革すること。
 交換・交易・輸送・移動を含む「交通」(Verkehr)概念から「交換様式」への具象的展開


第五回 長池講義 開催情報
会   場 長池公園自然館 東京都八王子市(長池公園自然館は会場を提供しているだけなので、講演の内容などについて問い合わせをしても答えられません。ルートの確認なども含め、問い合わせしないようにお願いします。)
長池公園自然館(ネイチャーセンター)への行き方>>
日   時 2009年9月5日土曜日 13:00〜17:00
講   師 柄谷行人、澤口隆志
テ ー マ 協同組合論
定   員 45名
入 場 料 無料
お申し込み 終了しました。

第四回長池講義 柄谷講義要綱
2009/3/28
柄谷行人

第四回長池講義 要綱

 歴史と反復            

 昨年から、100年に一度の経済危機とか、1929年以来の大恐慌だというようなことが盛んにいわれるようになった。おまけに、「資本主義はもう終る」などという声まで聞こえてくる。しかし、そんな危機は古い話だといってきた経済学者やジャーナリストが突然そういい始めるのはおかしい。それまで自分らが言ってきたことの誤謬については一切述べず、まるでこれが誰も予期できなかった自然災害であるかのように。しかし、恐慌やその後に来る不況は、資本主義にとって不可避的なものである。倒産や解雇という乱暴なやり方でしか、資本制生産は自己調整する方法をもたないのだ。だが、だからといって、資本主義が自動的に終るわけではない。資本と国家は何としてでも存続しようとするからだ。

 また、恐慌―不況―恐慌という景気循環にも短期的なものと長期的なものがある。マルクスが『資本論』で考察したのは、約一〇年周期の短期的なもの(ジュグラー波)である。それとは別に、五、六〇年周期の景気循環(コンドラチェフの長期波動)がある。さらに、それよりも長いブローデルの「長期的サイクル」が指摘されている。それに対して、ジョヴァンニ・アリギは、こうした長期波動は、物価の長期的変動の観察にもとづくものだから、近代資本主義以前にもあてはまるものでしかない。それでは、資本の蓄積(自己増殖)のシステムに固有の現象をとらえることができない、と述べている(『長い20世紀』土佐弘之監訳)。

 だが、私の考えでは、長期波動は、世界資本主義における基軸商品が交替する大きな変化に付随するものとして説明できる。現在の恐慌、そして長引く不況は、そのような種類のものである。とはいえ、今回のそれは、一九三〇年代のそれとは違っている。それを見るためには、資本主義経済の反復性だけでなく、国家の反復性を考慮にいれなければならない。

 もちろん、大規模な信用恐慌や不況という点では類似性がある。そんなことは誰でもわかる。しかし、その中身はまるで違うのだ。たとえば、一九二九年の恐慌とその後の不況の時代には、アメリカが世界経済のヘゲモニーを確立する道をたどった。一方、現在は、アメリカの没落がはっきりしたが、それに代わるヘゲモニー国家が存在せず、競合しあうような状態に向かっている。その意味で、これはむしろ大英帝国がヘゲモニー国家として衰退し、ドイツ・アメリカ・ロシア・日本などが競合しはじめた時期、つまり、一八八〇年代に似ている。

 また、現在の不況は一八七三年の恐慌からはじまった慢性不況に似ている。この慢性不況は鉄鋼などの重工業生産が主要な産業となったために生じたといってよい。このことは、他方で、それまで軽工業(繊維工業)を中心にしてヘゲモニーを握った大英帝国の没落を招いた。巨大な資本投下を要する重工業は、国家資本主義的なやりかたでなければやっていけないからだ。しかし、重工業は設備投資の割合が大きいため、一般的利潤率の低下が生じる。また、労働者の雇用が繊維工業ほど多くないために、失業率が増大する。国内で過剰となった資本は海外に向かった。そして、列強が市場と資源を確保しようと争うようになった。それが「帝国主義」と呼ばれている。これが第一次大戦に帰結したのである。

 それに比べて、一九三〇年代の不況は深刻ではあったが、現在と違って、その先に展望があったといえる。というのは、自動車や電気製品など耐久消費財の大量生産・大量消費(フォーディズム)の時代がはじまろうとしていたからである。しかるに、現在、そのような展望はない。むしろその結果としての環境破壊に悩まされているのだから。現在の技術革新は情報技術にあるが、それは通信や運輸という領域における労働時間の短縮によって利潤率を高めようとするものである。しかし、それは設備投資が増大するわりに人手を減らす。その点で、重工業が中心となった時代と似てくる。つまり、利潤率が低下し、労働者の雇用が減り消費が減退する。ここでは、一九三〇年代には有効であった、ケインズ主義的な需要喚起策は機能しない。そもそも、新自由主義あるいはグローバリゼーションは、ケインズ主義的福祉国家ではやっていけなくなったからこそ、はじまったのである。

 さらにいうと、一九三〇年代の不況は、ニューディールによって克服されたとはいえない。ドイツや日本はいうまでもないが、アメリカでも実際には、軍事的ケインズ主義しか機能しなかった。日米戦争の開始によって、はじめてアメリカの景気は回復したのである。このような軍需による経済回復(失業問題の解決)が戦争に帰結するのは避けられない。もし現在が一九三〇年代に似ているというなら、そして、その教訓から学ぶというのなら、そのことを想起したほうがよい。つまり、ニューディールなどは一度もうまくいったためしがないということを。

 私が過去を参照するのは、たんなる類似性からではない。資本と国家がそれぞれもつ反復性を見出すからだ。国家と資本の世界史的段階と反復性を簡単にまとめると、図のようになる。ここで、「帝国主義的」と「自由主義的」ということについて、一言説明を加えておく。これらは通常の意味とは異なっている。先ず、自由主義的とは、ヘゲモニー国家がとる政策の傾向である。ヘゲモニー国家は生産・商業・金融の三つの面で優位に立つ。ウォーラーステインによると、そのようなヘゲモニー国家は、近代の世界経済の中で三つしかなかった。オランダ、イギリス、そして、アメリカ(合衆国)である。また、それらが三つの面すべてにおいて優位に立つ期間は短い。ただ、生産部門でヘゲモニーを失っても、商業や金融の部門では長く維持する。オランダやイギリスもそうであったし、一九九〇年以後のアメリカもそうであった。アメリカの衰退は一九七〇年代にはじまっていたが、金融の部門における優位は揺るがなかった。アメリカが絶頂期にあるかのように錯覚した人が多かったのはそのためであろう。たとえば、ネグリ&ハートは、アメリカが唯一の「世界帝国」となったと主張した。しかし、一九九〇年以後にいよいよ明瞭になったのは、アメリカのヘゲモニーが失われ、多数の帝国(広域国家)が乱立するということであった。

 つぎに、「帝国主義的」とは、ヘゲモニー国家が衰退したが、それにとって代わるものがなく、次期のヘゲモニー国家を目指して、熾烈な競争をする時代である。一九九〇年以後はそのような時代である。いわゆる「新自由主義」は、アメリカがヘゲモニー国家として「自由主義的」であった時代(冷戦時代)が終わって、「帝国主義的」となったときに出てきた経済政策である。「帝国主義」時代のイデオロギーは、弱肉強食の社会ダーウィニズムであったが、「新自由主義」も同様である。事実、勝ち組・負け組、自己責任といった言葉が臆面もなく使われたのだから。しかし、アメリカの没落に応じて、ヨーロッパ共同体をはじめ、中国・インドなど広域国家(帝国)が各地に形成されるにいたった。

 では、アメリカの没落とともにはじまる、この「帝国主義」のあとは、どうなるのか。つまり、どの国がヘゲモニー国家となるのか。ウォーラーステインと同様に、近代世界システムの変遷を、ヘゲモニー国家の交替という観点から見たアリギは、中国がそうだという。アリギの考えでは、ヘゲモニー国家は、ジェノヴァ、オランダ、イギリス、アメリカという順におこった。それぞれ、初期の段階では、「生産拡大」の傾向があり、末期には「金融拡大」の傾向が見られる。アリギはこれを、資本の蓄積システムのサイクルという観点から見る。初期には交易や生産に投資することによって蓄積しようとするために、生産拡大が生じ、末期には、金融だけで蓄積しようとするために、金融拡大が生じる、というのである。

 しかし、基軸商品の交替という観点から見ると、この次に、今までのようなヘゲモニー国家が生まれることはありそうもない。それよりも、資本主義経済そのものが終わってしまう可能性がある。中国やインドの農村人口の比率が日本並みになったら、資本主義は終る。もちろん、自動的に終るのではない。その前に、資本も国家も何としてでも存続しようとするだろう。つまり、世界戦争の危機がある。

 そのように見ると、一九九〇年以後の状況が一八七〇年以後の状況と似ていることがわかる。この類似は、東アジアの文脈で見ると、もっと切実である。たとえば、現在東アジアで進行している事態は、一九三〇年代との比較で考えられてきた。確かに、中国・台湾、韓国・北朝鮮、ロシア、そして日本の間の関係において、戦前の問題が今なお大きな影を与えていることは疑いがない。しかし、それだけを見ていると、現在がいかに戦前と異なるかを見落とすことになる。たとえば、ロシアはソ連ではなく、旧ロシア帝国のようになっている。また、中国は戦前のように帝国主義的侵略にさらされて分裂している状態ではなく、今や政治・経済的に巨大な存在となっている。だが、それは一二〇年前の中国を考えれば、驚くほどのことでもない。

 当時、清朝は世界帝国であった。その周辺国である日本が旧体制を倒して開国したのに対して、朝鮮の李朝は親日的な開国派を弾圧し、清朝を宗主国として鎖国を維持しようとした。それが日本と清朝の対立、すなわち、日清戦争に帰結したのである。日本は近代国家・産業資本主義の体制を確立し、帝国主義的に転換しつつあった。とはいえ、この時期、清朝は巨大であるだけでなく、近代化した軍備をもっていた。ゆえに、日清戦争に際して、日本は清朝を非常に恐れていたのである。日清戦争の後に清朝が日本に譲渡したのが台湾である。現在の東アジアを見ると、日本、中国、台湾、韓国、北朝鮮、ロシアという構造になっているが、それは一二〇年前に形成されたものであり、しかも、それは一九三〇年代には無くなっていたのである。

 昨年来、私は、今後日本はどうすればよいかと、何度も聞かれた。私は「国家と資本」の立場からものを考えることはない。せいぜいいえるのは、日本が日清戦争の時期と同様に、アジアにつくか「脱亜」に向かうかという岐路に再び立つだろう、ということである。過去の日本が「脱亜」を選んで失敗したことはいうまでもない。だからといって、今度は「入亜」だ、というべきではない。私自身は、そのどちらでもあり、どちらでもないようなあり方を志向すべきだと考える。

  1750-1810 1810-1870 1870-1930 1930-1990 1990-
世界資本主義 後期重商主義 自由主義 帝国主義 後期資本主義 新自由主義
ヘゲモニー国家   英国   米国  
傾向 帝国主義的 自由主義的 帝国主義的 自由主義的 帝国主義的
資本 商人資本 産業資本 金融資本 国家独占資本 多国籍資本
世界商品 繊維産業 軽工業 重工業 耐久消費財 情報
国家 絶対主義王権 国民国家 帝国主義 福祉国家 地域主義
図:近代世界システムの歴史的段階


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