第四回長池講義 苅部講義レジュメ
2009/3/28
苅部 直(かるべ・ただし)

「開国」と結社――丸山眞男から吉野作造へ

(I) 「鎖国」と「開国」

 丸山眞男「開国」(1959年1月、『講座現代倫理11:転換期の倫理思想(日本)』
          筑摩書房。『忠誠と反逆』ちくま学芸文庫に再録)
   唐木順三「鎖国」、和辻哲郎『鎖国』(1950)との呼応
   「閉じた社会」から「開いた社会」へ / 「国際社会」への強制的編入
   三度のチャンス=戦国時代・幕末維新・「敗戦」後
    →現代的な問題と意味とを自由にくみとる
   視圏の拡大、閉じた思考の打破→他者と己れ、抽象的な社会への帰属
   民間メディアの発達、「道理」が一般的抽象的理性に、自由討議・自主的集団
    but、ナショナルな「集団転向」への傾き、政治団体がモデルになってしまう

 「近代日本の思想と文学」(1959年8月、『岩波講座 日本文学史』15巻。
                『日本の思想』岩波新書に再録)
   cf. 宮村治雄『丸山眞男『日本の思想』精読』(岩波現代文庫)
   「開かれた」科学観ー他者意識・市民意識との連関
   モデレートな懐疑精神(二葉亭・漱石・鴎外)
   既知の法則の例外現象→構想力、仮説、trial and error、他者との経験の積み重ね
     ↓
   「『である』ことと『する』こと」(1959年1月発表、『日本の思想』に再録)
     制度の自己目的化を問う、プロセスとしての民主主義
     自発的な集団形成、会議と討論

 1962年4月、米国アジア学会報告
 →「個人析出のさまざまなパターンーー近代日本をケースとして」(1965年英文発表)
    自立化・民主化・私化・原子化

 1991年11月「秋陽会記」(『丸山眞男話文集』第4巻、みすず書房)
  湾岸戦争、「国連強化」論批判
  “主権国家の寄せ集めであるかぎり、国連は永久にダメなんですよ。”
  主権概念との訣別、初期ハロルド・ラスキの「多元的国家論」(political prulalism)
  「多元的な世界構成の秩序単位」:EC・国家・アムネスティ・宗教団体・大学・
                 実業団体 →国連改革へ
  憲法第9条の先駆的意味

<国内秩序ー国際秩序の枠を超えた、重層化・多元化の運動としてのデモクラシーへ>
(II) 吉野作造とフリーメイソンリー
                     *『思想』2009年4月号掲載論文
 丸山「開国」論の一源流としての、吉野作造:朱子学の「理」と国際法・自然法概念
  「我が国近代史における政治意識の発生」(1927)
   「公道」観念(国際法受容)+議会主義の発展+天賦人権論→国民の政治的自覚
   儒学の「道」と結びつけ、国際法を形而上学的実体と誤解
    →but、人々が「新理想」を知り、視野を普遍性へ開いていく結果に
  『露国帰還の漂流民幸太夫』(文化生活研究会、1924)
   「排外思想」「維新前後の国際協調主義者」
 1921年夏、「日本開国史の研究を思い立ち資料の蒐集に着手す」(翌年1月の日記)

 同時代のユダヤ・フリーメイソンリー陰謀説に対する批判
  「マツソン秘密結社なるものについて」(『中央公論』1920.1)
 「所謂世界的秘密結社の正体」(『中央公論』1921.6)
  「賢者ナータン」「フリー・メーソンリーの話(全4回)」(『文化生活』1921〜22)

 ロシア革命・内戦→『シオン賢者の議定書』の世界的普及
  シベリア出兵、パンフ『過激思想の由来』、四王天延孝、酒井勝軍、樋口艶之助
  立憲主義・デモクラシー・平和主義への警戒

 吉野とフリーメイソンリーの出会い(1911年、ハイデルベルク)
  「自由平等並びに四海同胞の人道主義の基礎の上に立つて個人的道徳修養を専らとす
   る団体」「完全なる人類和親を主張するもの」
  「僕自身にした所が縁故が無いから入らないものの、出来るなら是非之に入りたいと
   考へて居る位だ」
  菅村道太郎『フリー・メーソンリーの研究(政治研究・第2冊)』(1920)

  *フリーメイソンリーと近代市民社会
    ラインハルト・コゼレック『批判と危機』(原著1959年、未来社)
    シュテファン=ルートヴィヒ・ホフマン『市民結社と民主主義』
     (Geselligkeit und Demokratie、原著2003年、岩波書店)

 20世紀初頭の早期グローバリゼーション:交通・通信の発達、都市化、大衆文化
  第一次世界大戦・国際連盟・国際共産主義
 →吉野作造の秩序観の変化:「国家精神」から、国家権力の相対化、多元主義への接近
   「国家生活の一新」「政治学の革新」(『中央公論』1920. 1. )
   「アナーキズムに対する新解釈」(1920)
   「現代通有の誤れる国家観を正す」(1921)

<個人・国家・国際社会の三層分立の相対化、グローバルな空間での結社の交錯へ>